生徒の学習意欲、関心を向上させる指導方法の工夫

―高等学校家庭科の家経営領域を中心として―

 

坂本宜子

 

1 本研究の目的

テキスト ボックス: 章構成
第1章	本研究の意義と目的
第2章	先行研究
第3章	研究方法と調査対象
第4章	第1調査の結果と考察
第5章	第2調査の結果と考察
第6章	まとめと今後の課題
教育課程の改訂で、家庭科は「家庭総合」、「家庭基礎」「生活技術」の3つから一つを選択することとなったが、2単位の「家庭基礎」を履修する学校がことのほか多い。「家庭基礎」は時間の制約もあって調理実習や被服実習など時間のかかるものが大幅に削減され、家庭経営領域に重点を置いた内容構成になっている。しかし、生徒達は実習形式の授業には意欲的に取り組むが、座学形式の授業では意欲が薄れる傾向にある。「家庭基礎」を学ぶ生徒が多い現在、家庭経営領域の授業で今まで以上に魅力ある授業を行うことが重要になってきており、講義形式の授業で生徒が興味関心を持つポイントを明らかにしたいと考えた。そこで講義形式の授業において、生徒の意欲関心が高い授業の指導方法の特徴を析出し、その中から学習意欲の向上に結びつく指導の工夫を取り入れた授業を実践し、その効果を検証することを本研究の目的とした。

3 研究方法と調査対象

都立高校4校(O、B、S、U)の経験10年以上の家庭科教師に依頼し、教室での講義形式の一斉授業で、2時間連続の家庭経営領域を対象に参与観察するとともに、ビデオで授業を記録し、さらに授業後に授業評価アンケートを生徒に実施した。これを第1調査とした。

ビデオ記録した授業の分析は、フランダース、西之園らの授業行動のカテゴリーシステムを参考に、教師の教授行動と生徒の学習行動が生徒の学習意欲向上にどのように影響しているか検証するため、生徒の自発的発問、自発的発言に注目したプロトコール分析を行った。すなわち、教師行動を「発問」「説明・指示」「板書」「机間巡視・応答」「作業・注意・確認」の5つ、生徒行動を「発問応答「自発的発言・発問」「作業・挙手・その他」の3つのカテゴリーに分け、2時間におけるそれぞれのカテゴリーの行動時間と行動度数をデータ化した。

授業評価アンケートは、東京都教育委員会研究開発委員会家庭部会の授業評価アンケートに多少の変更を加え使用した。そのアンケートは自己評価、授業評価、自由記述から構成されており、自己評価と授業評価は「あてはまる」「まああてはまる」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の4件法で回答を求めており、それぞれに1〜4点を付し、評定平均で分析も行った。また、自由記述からは、生徒のさまざまな授業に対する感想、意見などが述べられており、それらから授業改善のヒントを抽出しその後の授業に生かした。

第1調査で析出された生徒の学習意欲向上に効果が期待できる工夫を取り入れた授業実践をS高校で実践し、その効果を検証した。これを第2調査とした。第2調査は、指導方法の工夫(授業実践1)と教師の発言量(授業実践2)に注目し、統制群―非統制群でその相違を検証した。第2調査も第1調査と同様に、ビデオ記録によるプロトコール分析、及び授業評価アンケートによる分析を行った。

4 第1調査結果と考察

1調査の授業評価アンケートによればとして、各校とも評定平均値が高かったのは「授業の準備は出来ていた」の項目で、評定平均値はO校で3.5B3.6、S校3.4、U校3.9であり、逆に低かったのは授業観察、授業評価アンケート「意欲的に発言できた」の項目で、評定平均値はそれぞれ1.42.51.92.3であった。各校の評定平均値の差が大きかった項目は「授業は楽しかった」で、最も低いS校が2.1、最も高いU校が3.6であった。U校の「先生の熱意が感じられた」「生徒への対応は丁寧だった」の項目の評定平均値が3.9で、90%の生徒が4を付けているのは注目すべき点があると思われる。

またプロトコール分析の結果、教師の「指名・全体発問」O校で170秒(15回)、B校で189秒(19回)、S校で325(25回)、U校で467秒(59回)で、U校が最も多かった。「発問応答」「自発的発言・発問」を合計した生徒の発言行動O校で120秒(14回)、B校で611秒(76回)、S校で399秒(47回)、U校で528秒(88回)で、B校、U校が多かった。U校では、生徒の発問、教師の応答、生徒の自発的発言という授業におけるコミュニケーションが活発に行われていたのに対して、B校は生徒の発問内容は、生活費の計算方法に対しての生徒の個人的質問と教師の応答がほとんどであった。

以上のことから、授業評価アンケートで評定平均の高い授業では、教師の「指名・全体発問」も生徒の「発問応答」「自発的発言・発問」も多かったといえる。この授業の内容を検討した結果、第1に以下の4つが意欲関心の向上に効果があると予想される指導方法の工夫として析出された。まず授業導入部においてけるクイズを取り入れたりキーワード提示してによる本時に行う学習授業内容を明確にしていることの予告、第2生徒の興味関心を引く実物や生徒の興味関心を引く資料提供ていることと将来の生活を題材にした、3計算等の作業をさせたり板書で発表させるなど、行動に変化動きを付けた全員授業形態黒板利用、第4に教師の発問が多く生徒の発言を引き出していたことが、特徴としてあげられたすことであった

5 第2調査結果と考察

第1調査で明らかになった指導の工夫(授業実践1)と教師の発問量の相違(授業実践2)を取り入れた第2調査の結果、「授業実践1」においては、授業アンケートの評定平均値が「意欲的に発言できた」では統制群が2.5、非統制群が2.2「学ぶ意欲が出た授業だった」では統制群3.2、非統制群2.9となり、両者に有意な差があり、統制群において生徒の興味関心が高くなることが検証された。授業改善の計画

「授業実践2」から以上では、プロトコール分析から生徒の発言の合計は、統制群591秒(182回)非統制群623秒(113回)と両者に差が無く、特に「指名発問応答」が統制群257秒(50回)非統制群135秒(30回)、「発問応答」がそれぞれ135秒(19回)、57秒(10回)と、統制群の方が多かったが、「自発的発言」それぞれ114秒(19回)287秒(50回)と、かえって統制群の方が少なってしまったことがわかったが、これは、ことは教師の発問方法を詳細に見ると、一定の時間数の中で発問数を多くするために、生徒の発言を引き出す指導として、発言しやすい雰囲気を作り出すことがまず第一に挙げられる。これは、12回の授業改善では、作り出すことはできず、毎回の授業の積み重ねによって作り出されるといえる。楽しい授業で発言しやすい雰囲気作りをし、1時間の授業で全員が1回は発言するルールを作るなど、教師が全員に発言する機会を作ることも大切であることがわかった。それは、発問してからすぐに生徒を指名し回答を求めており、生徒に考える時間が十分とられていなかった。自分の意見をまとめるのが苦手な生徒の場合一度意見を紙に書いてから発表させるなどのさらなる指導上の工夫が、発言だけでなく紙に書いて発表するという手段は、意見を発表するのが苦手な生徒に有効必要であると感じられた。導入部でのクイズ形式で授業内容を予告し、授業のまとめで答えあわせをすることは、生徒の興味関心を引き出し持続させることに大変有効であった。テストというと拒否反応する生徒でも、同じ内容の学習内容をクイズ形式にし、○×式にしたり3択にすることで誰でも簡単に答えることができ生徒の学習意欲が向上したことは明らかであった。また、答え合わせした後何問あっていたか挙手させた時、全問正解したいと意欲的になり、他の生徒が、どのくらい合っていたか興味を示したのが印象的であった。クイズ形式の出題は、S高校において有効だったので、今後も継続していきたいと思っている。

参加型黒板の使用は、小学校ではよく用いられる指導方法であるが、今回の授業実践でつかってみたが、高校生にも有効であることを、実感した。授業のまとめに正社員とフリーターの長所をタックシールに書いて黒板に張った模造紙にカテゴリーわけをさせながら一人ひとり黒板まで出てきて貼らせた。授業時間は、普通の意見発表より時間はかかるが、生徒の動作に変化が出て集中力が持続しやすいがわかった。

授業を分析する方法のひとつに

6 まとめと今後の課題

第1調査において、生徒の興味関心が高い授業の特徴を析出でき、授業を分析する方法のひとつに調査の「授業実践1」の指導方法の工夫においては効果が確認できた。特にクイズは生徒になじみ深く、不正解が学習意欲のマイナスにつながらないで取り組むことができ、生徒の興味関心を引き出ことに有効であったと思われるしかし「授業実践2」の教師の発問と生徒の自主的な発言との関連においては必ずしもその効果が明確にならなかった。教師の発問と生徒の発言は、時間の制約や、実験群と統制群を用いた教師と生徒の人間関係(日常の信頼関係や親密度)や生徒の状況(寒暑、落ち着かない環境などであれば影響されることがあることも推測された。からである

授業分析において、本研究では参与観察や授業評価アンケートプロコール分析によって量と質の両方から分析したことにより明らかになったことも多い。これまでは一つの方法で授業分析をすることが多かったがが、、多面的分析も大切であることがわかった。

通常、教師は生徒の反応などを見て次の授業改善に生かしてはいるが、その多くは教師の感覚に頼っている。今回のように明確な指標を使って授業を評価することによって、授業を客観的に把握できた部分も多く、こうした手法による授業改善が大切であると実感した。